痛みは、感じなかった。
ただ、ここで『終わって』しまうことが悲しかった。
『トランさん!』
あの緑の瞳の明朗な少女は、泣くのだろうか。
『……ほら、行くぞ』
金の髪の冷静な少女は、嘆いてくれるのだろうか。
うっすらと開いた瞳の先、暮れていったそらが、見えた。
あぁ、あのあおが、見たかった、のに。
『まったく、お前という奴は』
そらのあおを持つ、彼は。
わたしをうしなったことを、かなしんでくれるのだろうか。
本当は、自分など未練だらけで。
しにたくない。
いきていたい。
まだ、はなれたくない。
口に出来ない気持ちはただ、すべてココロの底に覆い隠して。
未練などないと、言い聞かせた。
それですべてがおわるのだと、おもいつづけていた。
身体が熱く、喉が痛い。
朦朧とした意識の向こう、手に触れる別のぬくもり。
「トラン。大丈夫か」
ささやくような声がわたしを呼んで。
うっすらと目を開けば、あおが、見えた。
その名を呼ぼうと口をひらいても、うまく言葉にならない。
「無理に話そうとするな。大丈夫だ、ここにいる」
「わかって、います」
せめて、と口元をえみの形に、変えて。
こたえることしかできないこの身体が、くやしい。
うでも、あしも、このこころすら、不良品、欠陥品。
決して、よみがえらせてくれたあのしろい魔術師がわるいわけでは、なく。
これはきっと、いきていたいとねがった、わたしのつみのかたち。
「……っ」
握りしめたてのひらすら、力をうまく伝わらせられない。
意識をつぶしていくような痛みも、恐怖も、すべて、すべて。
あの時、しにたくないと、ただ、そう願ったわたしのつみ。
彼は、自分も同罪だとわらう。
わたしは、貴方は違うと首をふる。
あぁ、後悔することならばたくさんある。
あの時こうしていれば。こうだったならば。
指折り数えていけばその思いにおわりなんてない。
でも、いちばんの後悔は。
『トラン』
もう二度と、貴方に会うことができないこと、だった。
それが叶ったのに、まだわたしはこの仮初の生にしがみついている。
意識を手ばなせば、楽になれるのだと、意識のそこでささやくものがある。
……あと、もう少しだけ。
神という存在があるのなら、あと、もう少し、このままで。
そのときは、すべてを受け入れて目を閉じます。
だから、今だけは。
このままで、いさせて、ください。
2007/12/18 Ren Katase