「もう終わりなの」
その少女はぽつり、ただ一言だけそう漏らした。
何も変わらないはずで、ずっと同じように続くのだと誰もが思っていたはずだった。
それでも、その時は訪れてしまうのだと。
「……悔いはあるの。寂しくないはずがないの。でも、決まったことだから」
無機質に少女の声は続く。顔は見えない。俯いているから。
握られることすら忘れた人形の手のひらは、ただゆっくりと重力に任せて揺れていた。
「わたしには、なにもできない」
無力だから。顔を上げた少女はわらう。
人形のはずの表情が、人間のようにも見えた。
レティス、と誰かが少女に付けられた名前を呼んだ。少女はそれにこたえない。
ふい、とそのまま背を向けた。青い髪と、頭に乗せられた大きなリボンが柔らかく揺れる。
「できないけれど、道は、示せるから」
うしなわれることは、絶望であるはずなのに。
それでも少女の声は、希望に満ちているようにも聞こえた。
一度は背を向けた少女が振り返る。赤い瞳がす、と見据えて。
「大丈夫。また、もう一度」
「私はうしなわれるけれど。『私』はいるから」
少女の手がこちらへと伸ばされる。ふわり、舞うのは光の粒。
指先から、髪の先から、ふわりふわりと――まるで、ほどけていくように。
「また、最初からになるけれど」
「一緒ならきっと、ううん、間違いなく楽しいから」
だから。少女は笑う。
いつもよりもずっと、華やかな。まるで人間のような笑みで。
「もう一度、繋げばいい」
ひとを。たましいを。きずなを。
もういちど。
「一緒にいてくれて、ありがとう。……また、会いましょう」
その少女はそうして、静かに目を覚ます。
周囲に視線を向け、自分の人形の掌を見つめる。
逡巡すること、しばし。
「……あなたなの?」
ぽつり、と。
頭の中に落ちてきた、自分と『同じ』だけれど『違う』少女の名前を声にならない声で小さく呼んだ。
ちらり、舞い散る光の粒を両手で受け止めて明滅する光にその硝子の目を細める。
「大丈夫。あとは、わたしがいるから」
そっと光の粒を抱きかかえるようにして、目を閉じた。
その仕草は、まるで祈りにも似て。
「……おやすみなさい、レティス」
2012/03/07 Ren Katase